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 『日本橋』 青空文庫

 そこへ、あとも閉めないでおいたと見える、開けたままの格子を潜って、顔を出したお千世は、一杯目に涙を湛えている。
 乱れて咲いた欄干の撓な枝と、初咲のまま萎れんとする葉がくれの一輪を、上下に、中の青柳は雨を含んで、霞んだ袂を扇に伏せた。――
「清葉さんは楽勤め。」と茶屋小屋で女中が云う。……時間過ぎの座敷などは、(お竹蔵。)の棟瓦に雀が形を現しても、この清葉が姿を見せた験が無い。……替りには、刻限までだと、何時に口を掛けても、本人が気にさえ向けば、待つ間が花と云う内に、催促に及ばずして、金屏風の前に衣紋を露す。

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