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 『春昼』 泉鏡花を読む

 恋ひ慕ふものならば、馬士でも船頭でも、われら坊主でも、無下に振切つて邪険にはしさうもない、仮令恋はかなへぬまでも、然るべき返歌はありさうな。帯の結目、袂の端、何処へ一寸障つても、情の露は男の骨を溶解かさずと言ふことなし、と申す風情。
 然れば、気高いと申しても、天人神女の俤ではなうて、姫路のお天守に緋の袴で燈台の下に何やら書を繙く、それ露が滴るやうに婀娜なと言うて、道ので洗ひ髪ではござらぬ。人跡絶えた山中の温泉に、唯一人雪の膚を泳がせて、丈に余る黒髪を絞るとかの、それに肖まして。

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