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 『夜叉ヶ池』 青空文庫

宅膳 黒牛の背に、鞍《くら》置かず、荒縄に縛《いまし》める。や、もっとも神妙に覚悟して乗って行《ゆ》けば縛るには及ばんてさ。……すなわち、草を分けて山の腹に引上せ、夜叉ヶ池の竜神に、この犠牲《いけにえ》を奉るじゃ。が、生命《いのち》は取らぬ。さるかわり、背に裸身《はだかみ》の女を乗せたまま、池のほとりで牛を屠《ほふ》って、角ある頭《こうべ》と、尾を添えて、これを供える。……肉は取って、村一同冷酒《ひやざけ》を飲んで啖《くら》えば、一天たちまち墨を流して、三日の雨が降灌《ふりそそ》ぐ。田も畠《はた》も蘇生《よみがえ》るとあるわい。昔から一度もその験《しるし》のない事はない。お百合、それだけの事じゃ。我慢して、村長閣下の前につけても御奉公申上げい。さあ、立とう、立ちましょう。

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