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 『高野聖』 泉鏡花を読む

 はてさて迷惑な、こりや目の前で黄色蛇の旨煮か、腹篭の猿の蒸焼か、災難が軽うても、赤蛙の干物を大口にしやぶるであらうと、潜と見て居ると、片手に椀を持ちながら掴出したのは老沢庵。
 其もさ、刻んだのではないで、一本三ツ切にしたらうといふ握太なのを横銜へにしてやらかすのぢや。
 婦人はよく/\あしらひかねたか、盗むやうに私を見て颯と顔を赧らめて初心らしい、然様な質ではあるまいに、羞かしげに膝なる手拭の端を口にあてた。

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