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 『歌行燈』 従吾所好

 で、地獄の手曳め、急に衣紋繕ひをして下りる。少時〈しばらく〉して上つて来た年紀〈とし〉の少い十六七が、……こりや何うした、よく言ふ口だが芥溜〈はきだめ〉に水仙です、鶴です。帯も襟も唐縮緬ぢやあるが、もみぢのやうにしい。結綿のふつくりしたのに、浅葱鹿の子の絞高な手柄を掛けた。やあ、三人あると云ふ、妾の一人か。おゝん神の、お膝許で沙汰の限りな! 宗山坊主の背中を揉んでた島田髷の影らしい。惜しや、五十鈴川の星と澄んだ其の目許も、鯰の鰭で濁らう、と可哀〈あはれ〉に思ふ。此の娘が紫の袱紗に載せて、薄茶を持つて来たんです。

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