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 『義血侠血』 青空文庫

 渠はまた貴族的生活を喜ばず、好みて下等社会の境遇を甘んじ、衣食の美と辺幅の修飾とを求めざりき。渠のあまりに平民的なる、その度を放越して鉄拐《てっか》となりぬ。往々見るところの女流の鉄拐は、すべて汚行と、罪業と、悪徳との養成にあらざるなし。白糸の鉄拐はこれを天真に発して、きわめて純潔清浄なるものなり。
 渠は思うままにこの鉄拐を振り舞わして、天高く、地広く、この幾歳をのどかに過ごしたりけるが、いまやすなわちしからざるなり。村越欣弥は渠が然諾を信じて東京に遊学せり。高岡に住めるその母は、箸を控えて渠が饋餉《きしょう》を待てり。白糸は月々渠らを扶持すべき責任ある世帯持ちの身となれり。

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