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 『草迷宮』 鏡花とアンティークと古書の小径

 こんな川でも、動揺《どよ》みにゃ浪を打つわ、濡れずば栄螺も取れねえ道理よ。私《わし》が手を伸すとの、また水に持って行かれて、手毬はやっぱり、川の中で、その人が取らしっけがな。……此処だあ仁右衛門、先生様も聞かっせえ。」
 と夜具風呂敷の黄衣《きほろ》越に、茜色のその顱巻《はちまき》を捻向けて、
 「厭な事は、……手毬を拾うと、その下に、猫が一匹いたではねえかね。」

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