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 『日本橋』 青空文庫

 と、冴えた声。お孝が一声応ずるとともに、崩れた褄は小間を落ちた、片膝立てた段|鹿の子の、浅黄、紅、露わなのは、取乱したより、蓮葉とより、薬玉の総切れ切れに、美しい玉の緒の縺れた可哀を白々地。萎えたように頬杖して、片手を白く投掛けながら、
「葛木さん。」
 二度まで、同じ人の名を、ここには居ない人の名を、胸を貫いて呼んだと思うと、支えた腕が溶けるように、島田髷を頂せて、がっくりと落ちて欄干に突伏したが、たちまち反り返るように、衝と立つや、蹌踉々々として障子に当って、乱れた袖を雪なす肱で、しっかりと胸にしめつつ、屹と瞰下ろす目に凄味が見えた。

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