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 『春昼』 泉鏡花を読む

「どうと申して、段々頤がこけて、日に増し目が窪んで、顔の色が愈々悪い。
 或時、大奮発ぢや、と言うて、停車場前の床屋へ、を剃りに行かれました。其の時だつたと申す事で。
 頭を洗ふし、久しぶりで、些心持も爽になつて、ふらりと出ると、田舎には荒物屋が多いでございます、紙、煙草、蚊遣香、勝手道具、何んでも屋と言つた店で。床店の筋向うが、矢張其の荒物店であります処、戸外へは水を打つて、軒の提灯には未だ火を点さぬ、溝石から往来へ縁台を跨がせて、差向ひに将棊を行つて居ます。

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