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 『古狢』 青空文庫

 と同伴《つれ》の顔を見た時は、もうその市場の裡《なか》を半ば過ぎていた。まだ新しく、ほんの仮設らしい、通抜けで、ただ両側に店が並んだが、二三個処うつろに穴があいて、なぜか箪笥《たんす》の抽斗《ひきだし》の一つ足りないような気がする。今来た入口《はいりぐち》に、下駄屋と駄菓子屋が向合って、駄菓子屋に、ふかし芋と、茹《ゆ》でた豌豆《えんどう》を売るのも、下駄屋の前ならびに、子供の履《はき》ものの目立って《あか》いのも、もの侘《わび》しい。蒟蒻《こんにゃく》の桶《おけ》に、鮒《ふな》のバケツが並び、鰌《どじょう》の笊《ざる》に、天秤を立掛けたままの魚屋の裏羽目からは、あなめあなめ空地の尾花が覗《のぞ》いている……といった形。

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