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 『活人形』 鏡花とアンティークと古書の小径

 語るを聞いて泰助は心の中《うち》に思ふやう、いかさま得三に苛責されて、下枝か或は妹か、さることもあらむかし。活命《ながらへ》てだにあるならば、追着《おツつけ》救ひ得させむずと、漫《そゞろ》に憐《あはれ》を催しぬ。談話《はなし》途切れて宿の亭主は、一服吸はむと暗中《くらがり》を、手探りに、煙管を捜して、「おや、変《へん》だ。爰《こゝ》に置いた煙管が見えぬ。あれ、魔隠《まがくし》、気味の悪い。と尚其処此処を見廻せしが、何者をか見たりけむ。わつと叫ぶに泰助も驚きて、見遣る座敷の入口に、煙の如き物体《もの》あつて、朦朧として漂へり。彼《あれ》はと認むる隙《ひま》も無く、電《いなづま》?ふつと暗中《やみ》に消え、やがて泰助の面前に白き女の顕れ、拭ひたらむ様に又消えて、障子にさばく乱髪《みだれがみ》のさら/\といふ音あり。

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