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 『春昼』 泉鏡花を読む

(はあ、私。あなた、余りですわ。余りですわ。何うして来て下さらないの。怨んで居ますよ。あの、あなた、夜も寝られません。はあ、夜中に汽車のつくわけはありませんけれども、それでも今にもね、来て下さりはしないかと思つて。
 私の方はね、もうね、一寸……どんなに離れて居りましても、あなたの声はね、電話でなくつても聞えます。あなたには通じますまい。
 どうせ、然うですよ。それだつて、こんなにお待ち申して居る、私の為ですもの……気をかねてばかりいらつしやらなくても宜しいわ。些とは不義理、否、父さんやお母さんに、不義理と言ふこともありませんけれど、ね、私は生命かけて、屹とですよ。今夜にも、寝ないでお待ち申しますよ。あ、あ、たんと、そんなことをお言ひなさい、どうせ寝られないんだから可うございます。怨みますよ。夢にでもお目にかゝりませうねえ。否、待たれない、待たれない……)

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