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 『歌行燈』 従吾所好

「芸者でお呼び遊ばした、と思ひますと……お役に立たず、極りが悪うございまして、お銚子を持ちますにも手が震へてなりません。下婢〈おさん〉をお傍へお置き遊ばしたとお思ひなさいまして、お休みになりますまでお使ひなすつて下さいまし。お背中を敲きませう、な、何うぞな、お肩を揉まして下さいまし。其なら一生懸命に屹と精を出します。」
 と惜気もなく、前髪を畳につくまで平伏〈ひれふ〉した。三指づきの折かゞみが、こんな中でも、打上る。
 本を開いて、道中の絵をじろ/\と黙つて見て居た捻平が、重くるしい口を開けて、「子孫末代よい意見ぢや、旅で芸者を呼ぶなぞは、なう、お互に以後謹まう……」と火箸に手を置く。

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