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 『春昼後刻』 泉鏡花を読む


 此雨は間もなく霽れて、庭も山も青き天鵝絨に蝶花の刺繍ある霞を落した。何んの余波やら、庵にも、座にも、袖にも、菜種の薫が染みたのである。
 出家は、さて日が出口から、裏山の其の蛇の矢倉を案内しよう、と老実やかに勧めたけれども、此の際、観音の御堂の背後へ通り越す心持はしなかつたので、挨拶も後日を期して、散策子は、やがて庵を辞した。

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