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 『歌行燈』 従吾所好

 で、二台、月に提灯〈かんばん〉の灯〈あかり〉黄色に、広場の端へ駈込むと……石高道をがた/\しながら、板塀の小路、土塀の辻、径路〈ちかみち〉を縫ふと見えて、寂しい処幾曲り。やがて二階屋が建続き、町幅が糸のやう、月の光を廂で覆うて、両側の暗い軒に、掛行燈が疎〈まばら〉に白く、枯柳に星が乱れて、壁の蒼いのが処々。長い通りの突当りには、火の見の階子〈はしご〉が、遠山の霧を破つて、半鐘の形活けるが如し。……火の用心さつさりやせう、金棒の音に夜更けの景色。霜枯時の事ながら、月は格子にあるものを、桑名の妓達〈こたち〉は宵寝と見える、寂しい新地〈くるわ〉へ差掛つた。
 輻〈やぼね〉の下に流るゝ道は、細き銀の川の如く、柱の黒い家の状〈さま〉、恰も獺が祭礼〈まつり〉をして、白張の地口行燈を掛連ねた、鉄橋を渡るやうである。

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