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 『夜叉ヶ池』 青空文庫

そりゃあるいは雨も降ろう、黒雲《くろくも》も湧《わ》き起ろうが、それは、惨憺《さんたん》たる黒牛の背の犠牲《ぎせい》を見るに忍びないで、天道が泣かるるのじゃ。月が面《おもて》を蔽《おお》うのじゃ。天を泣かせ、光を隠して、それで諸君は活《い》きらるるか。稲は活きても人は餓《う》える、は湧いても人は渇《かつ》える。……無法な事を仕出《しいだ》して、諸君が萩原夫婦を追うて、鐘を撞《つ》く約束を怠って、万一、地《つち》が泥海になったらどうする! 六ヶ村八千と言わるるか、その多くの生命は、諸君が自ら失うのじゃ。同じ迷信と言うなら言え。夫婦仲睦《なかむつま》じく、一生埋木《うもれぎ》となるまでも、鐘楼《しょうろう》を守るにおいては、自分も心を傷《きずつ》けず、何等世間に害がない。

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