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 『歌行燈』 従吾所好

 本を開いて、道中の絵をじろ/\と黙つて見て居た捻平が、重くるしい口を開けて、「子孫末代よい意見ぢや、旅で芸者を呼ぶなぞは、なう、お互に以後謹まう……」と火箸に手を置く。
 所在なささうに半眼で、正面〈まとも〉に臨風榜可小楼を仰ぎながら、程を忘れた巻莨、此時、口許へ火を吸つて、慌てて灰へ抛つて、弥次郎兵衛は一つ咽せた。
「えゝ、いや、女中、……追つて祝儀はする。此処でと思ふが、其の娘の気が詰らうから、何処か小座敷へ休まして皆で饂飩でも食べてくれ。私が驕る。で。何か面白い話をして遊ばして、軈〈やが〉て可い時分に帰すが可い。」と冷くなつた猪口を取つて、寂しさうに衝と飲んだ。

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