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 『日本橋』 青空文庫

 さして気遣う事は無い。近間に大な建築の並んだ道は、崖の下行く山道である。峰を仰ぐものは多いけれど、谷を覗くものは沢山ない。夜はことさら往来が少い。しかも、その夜は、ちょうど植木|店の執持薬師様と袖を連ねた、ここの縁結びの地蔵様、実は延命地蔵尊の縁日で、西河岸で見初て植木店で出来る、と云って、宵は花簪、蝶々|髷、やがて、島田、銀杏返、怪しからぬ円髷まじり、次第に髱の出た、襟脚の可いのが揃って、派手にしく賑うのである。それも日本橋寄から仲通へ掛けた殷賑で、西河岸橋を境にしてこなたの川筋は、同じ広重の名所でも、朝晴の富士と宵の雨ほど彩色が変って寂しい。もっともこの一石橋の夜の御領主、名代の河童が、雨夜の影を潜めたのも、やっと五六年以来であるから。

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