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 『歌行燈』 従吾所好

「えゝ、いや、女中、……追つて祝儀はする。此処でと思ふが、其の娘の気が詰らうから、何処か小座敷へ休まして皆で饂飩でも食べてくれ。私が驕る。で。何か面白い話をして遊ばして、軈〈やが〉て可い時分に帰すが可い。」と冷くなつた猪口を取つて、寂しさうに衝と飲んだ。
 女中は、これよりさき、支いて突立つた其の三味線を、次の室の暗い方へ密と押遣つて、がつくりと筋が萎えた風に、折重なるまで摺寄りながら、黙然で、燈の影にの如く打揺ぐ、お三重の背中を擦つて居た。

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