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 『五大力』 従吾所好

 あゝ、船の中空に、蒔絵を研出したやうな月が、……と見れば、居まはりの蔵、物置も濡色が黒く颯と照つて、ばら/\とある枯柳も、其処此処にすら/\と光つた、土手を、ちらりと小提灯が一つ通る。
 屋根と屋根とかさなり掛つて星を鏤〈ちりば〉めた蒼空遙に、靄を破る鉄〈くろがね〉の天の柱かと見る工場の煙突さへ、月の面へぼつと吐く……短かな煙のいのが、船の婦の立姿、まるで、粉の刷毛に見えた。

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