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 『湯島の境内』 青空文庫

お蔦 あの、私は巳年《みどし》で、かねて、弁天様が信心なんです。……ここまで来て御不沙汰をしては気が済まないから、石段の下までも行って拝んで来たいんですから、貴方、ちょっとの間《ま》よ、待っていて下さいな。
早瀬 ああ、行くが可《い》い、ついで、と云っては失礼だが、お前不忍《しのばず》まで行ってはどうだ。一所に行こうよ。
お蔦 まあ、珍しい。貴方の方で一所なんて、不思議だわね。(顔を見る)でも、悪い方へ不思議なんじゃないから私は嬉しい。ですがね、弁天様は一所は悪いの。それだしね、私貴方に内証《ないしょ》々々で、ちょっと買って来たいものがありますから。

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