検索結果詳細


 『歌行燈』 従吾所好

 輻〈やぼね〉の下に流るゝ道は、細き水銀の川の如く、柱の黒い家の状〈さま〉、恰も獺が祭礼〈まつり〉をして、白張の地口行燈を掛連ねた、鉄橋を渡るやうである。
 爺様の乗つた前の車が、はたと留つた。
 あれ聞け……寂寞〈ひつそり〉とした一條廓〈ひとすじくるわ〉の、棟瓦にも響き転げる、轍の音も留まるばかり、灘の浪を川に寄せて、千里の果も同じ水に、筑前の沖の月影を、白銀〈しろがね〉の糸で手繰つたやうに、星に晃めく唄の声。

 50/744 51/744 52/744


  [Index]