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 『夜叉ヶ池』 青空文庫

鉱蔵 (ふわふわと軽く詰め寄り、コツコツと杖を叩いて)迷うな! たわけも可《い》い加減にしろ、女も女だ。湯屋へはどうして入る?……うむ、馬鹿が!(と高笑いして)君たち、おい、いやしくも国のためには、妻子を刺殺《さしころ》して、戦争に出るというが、男児たるものの本分じゃ。且つ我が国の精神じゃ、すなわち武士道じゃ。人を救い、村を救うは、国家のために尽《つく》すのじゃ。我が国のために尽すのじゃ。国のために尽すのに、一晩媽々《かかあ》を牛にのせるのが、さほどまで情《なさけ》ないか。洟垂《はなったら》しが、俺は料簡《りょうけん》が広いから可《い》いが、気の早いものは国賊だと思うぞ、汝《きさま》。俺なぞは、鉱蔵は、村はもとよりここに居るただこの人民蒼生《じんみんそうせい》のためというにも、何時《なんどき》でも生命を棄てるぞ。

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