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 『義血侠血』 青空文庫

 渠はその平生《へいぜい》においてかつて百金を吝《お》しまざるなり。されども今夜懐にせる百金は、尋常一様の千万金に直《あたい》するものにして、渠が半身の精血とも謂っつべきなり。渠は換えがたく吝しめり。今ここにこれを失わんか、渠はほとんど再びこれを獲るの道あらざるなり。されども渠はついに失わざるべからざるか、豪放豁達の女丈夫も途方に暮れたりき。
「何をぐずぐずしてやがるんで! サッサと出せ、出せ」
 白糸は死守せんものと決心せり。渠の唇は黒くなりぬ。彼の声はいたく震いぬ。

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