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 『半島一奇抄』 青空文庫

「いや、とけておちたには違いはありませんがね――三島女郎衆《じょろしゅ》の化粧の水などという、はじめから、そんな腥《なまぐさ》い話の出よう筈はありません。さきの御仁体でも知れます。もうずッと精進で。……さて、あれほどの竹の、竹の子はどんなだろう。食べたら古今の珍味だろう、というような話から、修善寺の奥の院の山の独活《うど》、これは字も似たり、独鈷《とっこ》うどと称《とな》えて形も似ている、仙家の膳《びぜん》、秋はまた自然薯《じねんじょ》、いずれも今時の若がえり法などは大俗で及びも着かぬ。早い話が牡丹《ぼたん》の花片《はなびら》のひたしもの、芍薬《しゃくやく》の酢味噌あえ。――はあはあと、私が感に入って驚くのを、おかしがって、何、牡丹のひたしものといった処で、一輪ずつ枝を折る殺風景には及ばない、いけ花の散ったのを集めても結構よろしい。しかし、贅沢といえば、まことに蘭飯《らんぱん》と称して、蘭の花をたき込んだ飯がある、禅家の鳳膸《ほうずい》、これは、不老の薬と申しても可《い》い。――御主人――これなら無事でしょう。まずこの辺までは芥川さんに話しても、白い頬を窪まし、口許《くちもと》に手を当てて頷《うなず》いていましょうがね、……あとが少しむずかしい。――

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