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 『歌行燈』 従吾所好

 爺様の乗つた前の車が、はたと留つた。
 あれ聞け……寂寞〈ひつそり〉とした一條廓〈ひとすじくるわ〉の、棟瓦にも響き転げる、轍の音も留まるばかり、灘の浪を川に寄せて、千里の果も同じに、筑前の沖の月影を、白銀〈しろがね〉の糸で手繰つたやうに、星に晃めく唄の声。

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