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『高野聖』 泉鏡花を読む
其処ではじめの内は我ともなく鐘の音の聞えるのを心頼みにして、今鳴るか、もう鳴るか、はて時刻はたつぷり経つたものをと、怪しんだが、やがて気が付いて、恁云ふ処ぢや山寺処ではないと思ふと、俄に心細くなつた。
其時は早や、夜がものに譬へると谷の底ぢや、白痴がだらしのない寐息も聞えなくなると、忽ち戸の外にものの気勢がして来た。
獣の跫音のやうで、然まで遠くの方から歩行いて来たのではないやう、猿も、蟇も、居る処と、気休めに先づ考へたが、なか/\何うして。
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