検索結果詳細


 『人魚の祠』 青空文庫

 唯《と》、沼が呼吸《いき》を吐《つ》くやうに、柳の根から森の裾、紫の花の上かけて、霞の如き夕靄がまはりへ一面に白く渡つて来ると、同じ雲が空から捲き下して、汀に濃く、梢に淡く、中ほどの枝を透かして靡きました。
 私の居た、草にも、しつとりと其の靄が這ふやうでしたが、袖には掛らず、肩にも巻かず、目なんぞは晶を透して見るやうに透明で。詰《つま》り、上下が白く曇つて、五六尺の上が、却つて透通《すきとほ》る程なので……

 52/122 53/122 54/122


  [Index]