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『龍潭譚』 青空文庫
身の毛よだちて、思はず〓呀《あなや》と叫びぬ。
人顔のさだかならぬ時、暗き隅に行くべからず、たそがれの片隅には、怪しきものゐて人を惑はすと、姉上の教へしことあり。
われは茫然として眼を〓《みは》りぬ。足ふるひたれば動きもならず、固くなりて立ちすくみたる、左手《ゆんで》に坂あり。穴の如く、その底よりは風の吹き出づると思ふ黒闇々たる坂下より、ものののぼるやうなれば、ここにあらば捕へられむと恐しく、とかうの思慮もなさで社の裏の狭きなかににげ入りつ。眼を塞ぎ、呼吸《いき》をころしてひそみたるに、四足のものの歩むけはひして、社の前を横ぎりたり。
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