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 『高野聖』 泉鏡花を読む

 むさゝびか知らぬがきツ/\といつて屋の棟へ、軈て凡そ小山ほどあらうと気取られるのが胸を圧すほどに近いて来て、牛が鳴いた、遠くの彼方からひた/\と小刻に駈けて来るのは、二本足に草鞋を穿いた獣と思はれた、いやさま/\にむらむらと家のぐるりを取巻いたやうで、二十三十のものの鼻息、羽音、中には囁いて居るのがある。恰も何よ、それ畜生道の地獄の絵を、月夜にしたやうな怪しの姿が板戸一重、魑魅魍魎といふのであらうか、ざわ/\と木の葉が戦ぐ気色だつた。

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