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 『春昼』 泉鏡花を読む

 恁うやつて、此の庵室に馴れました身には、石段はつい、通ひ廊下を縦に通るほどな心地でありますからで。客人は、堂へ行かれて、柱板敷へひら/\と大きくさす月の影、海の果には入日の雲が焼残つて、ちら/\真に、黄昏過ぎの渾沌とした、水も山も唯一面の大池の中に、其の軒端洩る夕日の影と、消え残る夕焼の雲の片と、蓮白蓮の咲乱れたやうな眺望をなさつたさうな。これで御法の船に同じい、御堂の縁を離れさへなさらなかつたら、海に溺れるやうなことも起らなんだでございませう。

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