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 『義血侠血』 青空文庫

 またこれ賊の遺物なるを白糸は暁《さと》りぬ。けだし渠が狼藉を禦《ふせ》ぎし折に、引き断《ちぎ》りたる賊の衣《きぬ》の一片なるべし。渠はこれをも拾い取り、出刃を裹《つつ》みて懐中《ふところ》に推し入れたり。
 夜はますます闌《た》けて、霄《そら》はいよいよ曇りぬ。湿りたる空気は重く沈みて、柳の葉末も動かざりき。歩むにつれて、足下《あしもと》の叢より池に跋《は》ね込む蛙《かわず》は、礫《つぶて》を打つがごとくを鳴らせり。

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