検索結果詳細


 『活人形』 鏡花とアンティークと古書の小径

 熟々《つく/゛\》其婦人を見るに、年は二十二三なるべし。しを/\とある白地の浴衣《ゆかた》の、処々《ところ/゛\》裂け破れて肩や腰の辺《あたり》には、見るもいぶせき血の汚点《にじみ》たるを、乱次《しどけ》無く打纏ひ、衣紋開きて帯も占めず、のくけ紐を胸高に結びなし、脛《はぎ》も顕はに取乱せり。露垂るばかりの黒髪は、ふさ/\と肩に溢《こぼ》れて、柳の腰に纏ひたり。膚《はだへ》の色真白く、透通るほど清らかにて、顔は太《いた》く蒼みて見ゆ。但《ただ》屹としたる品格ありて眼の光凄まじく、頬の肉落ち、頤《おとがひ》細りて薄衣の上より肩の骨の、いた/\しげに顕はれたるは世に在る人とは思はれず。強き光に打たれなば、消えもやせむと見えけるが、今泰助等を見たりし時、物をも言はで莞爾《につこり》と白歯を見せて笑める様は、身の毛も弥立《よだ》つばかりなり。

 53/219 54/219 55/219


  [Index]