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 『春昼』 泉鏡花を読む

 谷には鶯、峰には目白四十雀の囀つて居る処もあり、紺青の巌の根に、春は菫、秋は龍胆の咲く処。山清水がしと/\と涌く径が薬研の底のやうで、両側の篠笹を跨いで通るなど、ものの小半道踏分けて参りますと、其処までが一峰で。それから崕になつて、郡が違ひ、海の趣もかはるのでありますが、其崕の上に、たとへて申さば、此の御堂と背中合はせに、山の尾へ凭つかゝつて、彼是大仏ぐらゐな、石地蔵が無手と胡坐してござります。それがさ、石地蔵と申し伝へるばかり、余程のあら刻みで、まづ坊主形の自然石と言うても宜しい。妙におの尖がつた処が、拝むと凄うござつてな。

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