検索結果詳細
『五大力』 従吾所好
恁う見えて、慌てもんだから、がたんびしんと駈上つて、せい/\云つて茶の間に入ると向うの台所口から、人を凡て安直に扱ひやがる、長年もののお三どのが、部厚な顔を柱がくしで、頬を揺つてニヤ/\と、此方の慌しいのを見て笑ふ。
先づ、生命に別條はなささうだ、と此で一息吐〈つ〉いたつけ。叔母が長火鉢の前に、ぐつたりと俯向いて、まはり近所のが二三人、来合はせて居る処。
其の日、能楽堂で、三番目の熊野を勤めて、人が車を、車を、と云ふものを、何を、で老人、天気は可し、尤も杖の味はまだ知らない、薄目を仰向けに、夕日で酔うた顔をして、日和下駄をかた/\、信玄袋を提げて、中古な、袖外套で一人で帰つた。九段坂の下口〈おりぐち〉で、横倒れに……ステンとまゐつた、と云ふんだがね。」
548/1139
549/1139
550/1139
[Index]