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『龍潭譚』 青空文庫
われは人心地《ひとごこち》もあらで見られじとのみひたすら手足を縮めつ。さるにてもさきの女《ひと》のうつくしかりし顔、優《やさし》かりし眼を忘れず。ここをわれに教へしを、今にして思へばかくれたる児どものありかにあらで、何らか恐しきもののわれを捕へむとするを、ここに潜め、助かるべしとて、導きしにはあらずやなど、はかなきことを考へぬ。しばらくして小提灯の火影《ほかげ》あかきが坂下より急ぎのぼりて彼方に走るを見つ。ほどなく引返してわがひそみたる社の前に近づきし時は、一人ならず二人三人《ふたりみたり》連立ちて来りし感あり。
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