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 『春昼』 泉鏡花を読む

 丁どいまの曲角の二階家あたりに、屋根の七八ツ重つたのが、此の村の中心で、それから峡の方へ飛々にまばらになり、海手と二三町が間人家が途絶えて、却つて折曲つた此の小路の両側へ、又飛々に七八軒続いて、それが一部落になつて居る。
 梭を投げた娘の目も、山の方へ瞳が通ひ、足踏みをした女房の胸にも、海の波はらぬらしい。
 通りすがりに考へつゝ、立離れた。面を圧して菜種の花。眩い日影を輝くばかり。左手の崕の緑なのも、向うの山の青いのも、偏に此の真黄色の、僅に限あるを語るに過ぎず。足許の細流や、一段颯と簾を落して流るゝさへ、なか/\に花の色を薄くはせぬ。

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