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 『高野聖』 泉鏡花を読む

 些とお話もいかゞぢやから、先刻はことを分けていひませなんだが、昨夜も痴を寐かしつけると、婦人が又炉のある処へやつて来て、世の中へ苦労をしに出ようより、夏は涼しく、冬は暖い、此の流に一所に私の傍においでなさいというてくれるし、まだ/\其ばかりでは自分に魔が魅したやうぢやけれども、こゝに我身で我身に言訳が出来るといふのは、頻りに婦人が不便でならぬ、深山の孤家に痴の伽をして言葉も通ぜず、日を経るに従うてものをいふことさへ忘れるやうな気がするといふは何たる事!

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