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 『高野聖』 泉鏡花を読む

 殊に今朝も東雲に袂を降り切つて別れようとすると、お名残惜しや、かやうな処に恁うやつて老朽ちる身の、再びお目にはかゝられまい、いさゝ小川のになりとも、何処ぞで白桃の花が流れるのを御覧になつたら、私の体が谷川に沈んで、ちぎれちぎれになつたことと思へ、といつて悄れながら、なほ深切に、道は唯此の谷川の流れに沿うて行きさへすれば、何れほど遠くても里に出らるゝ、目の下近くが躍つて、瀧になつて落つるのを見たら、人家が近づいたと心を安んずるやうに、と気をつけて、孤家の見えなくなつた辺で、指しをしてくれた。

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