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『春昼』 泉鏡花を読む
如何にも賑かさうだが、さて何処とも分らぬ。客人は、其の朦朧とした頂に立つて、境は接しても、美濃近江、人情も風俗も皆違ふ寝物語の里の祭礼を、此処で見るかと思はれた、と申します。
其上、宵宮にしては些と賑か過ぎる、大方本祭の夜? それで人の出盛りが通り過ぎた、余程夜更らしい景色に視めて、しばらく茫然としてござつたさうな。
ト何んとなく、心寂しい。路も余程歩行いたやうな気がするので、うつとり草臥れて、最う帰らうかと思ふ時、其の火気を包んだ靄が、恁う風にでも動くかと覚えて、谷底から上へ、裾あがりに次第に色が濃うなつて、向うの山かけて映る工合が直き目の前で燃して居る景色――尤も靄に包まれながら――
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