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 『五大力』 従吾所好

 妙に、する/\と九段上が砥の上へ油を敷いたやうで、足が、辷つて、前へ出て、留めても留まらぬ。変だ、と思ふ……あの、坂の下口が、雲を踏外した心地で、あつとも言はず打倒れた――怪我をしたのは自分の所為ぢやないぞ、――と予て一人歩行きは危ない、危ない、と老人扱ひにされるのを嫌つて、故と日和下駄をからつかせて負けない気の我が折れて、小児が言訳をするやうな愚痴らしい事を、べそを掻き/\――
 婆々どの心配を掛けて済まん、と言ふ心持の、あの、気の折れ方が情ない。身体が弱つた証拠だつてね、叔御が言ふのも道理です。
 が、そんな口を利いたくらゐ、帰つた当座は、一時、正気のやうだつけ。少時して、又茫と成つて寝た……其のまんま、すや/\と鼾を掻いて居るんださうだ。

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