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『高野聖』 泉鏡花を読む
馬は売つたか、身軽になつて、小さな包みを肩にかけて、手に一尾の鯉の、鱗は金色なる、溌剌として尾の動きさうな、鮮しい、其丈三尺ばかりなのを、顋に藁を通して、ぶらりと提げて居た。何んにも言はず急にものもいはれないで瞻ると、親仁はぢつと顔を見たよ。然うしてにや/\と、又一通りの笑ひ方ではないて、薄気味の悪い北叟笑をして、
(何をしてござる、御修行の身が、この位の暑で、岸に休んで居さつしやる分ではあんめえ、一生懸命に歩行かつしやりや、昨夜の泊から此処まではたつた五里、もう里へ行つて地蔵様を拝まつしやる時刻ぢや。
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