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 『歌行燈』 従吾所好

「はい、」
 と弱々と返事した。お三重は最う、他愛なく娘に成つて、ほろりとして、
「あの、前刻〈さつき〉も申しましたやうに、不器用も通越した、調子はづれ、其の上覚えが悪うござんして、長唄の宵や待ちの三味線のテンもツンも分りません。此の間まで居りました、山田の新町の姉さんが、朝と昼と、手隙な時は晩方も、日に三度づゝも、あの噛んで含めて、胸を割つて刻込むやうに教へて下すつたんでございますけれど、自分でも悲しい。……暁の、とだけ十日かゝつて、漸と真似だけ弾けますと、夢に成つて最う手が違ひ、心では思ひながら、三の手が一へ滑つて、とぼけたやうな音がします。

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