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 『二、三羽――十二、三羽』 青空文庫

 まだある。土手三番町の事を言った時、卯の花垣をなどと、少々調子に乗ったようだけれど、まったくその庭に咲いていた。土地では珍しいから、引越す時一枝折って来てさし芽にしたのが、次第に丈たかく生立ちはしたが、葉ばかり茂って、蕾《つぼみ》を持たない。丁ど十年目に、一昨年の卯月の末にはじめて咲いた。それも塀を高く越した日当《ひあたり》のいい一枝だけ真に咲くと、その朝から雀がバッタリ。意気地なし。また丁どその卯の花の枝の下に御飯《おまんま》が乗っている。前年の月見草で心得て、この時は澄ましていた。やがて一羽ずつ密《そっ》と来た。忽ち卯の花に遊ぶこと萩に戯《たわむ》るるが如しである。花のいのにさえ怯えるのであるから、雪の降った朝の臆病思うべしで、枇杷塚と言いたい、むこうの真の木の丘に埋れて、声さえ立てないで可哀《あわれ》である。

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