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 『薬草取』 青空文庫

 千蛇《せんじゃ》が池《いけ》と申しまして、頂《いただき》に海のような大《おおき》な池がございます。そしてこの山路《やまみち》は何処《どこ》にも清なぞ流れてはおりません。その代《かわり》暑い時、咽喉《のど》が渇《かわ》きますと、蒼《あお》い小《ちいさ》な花の咲きます、日蔭《ひかげ》の草を取って、葉の汁《つゆ》を噛《か》みますと、それはもう、冷《つめた》いを一斗《いっと》ばかりも飲みましたように寒うなります。それがないと凌《しの》げませんほど、の少い処《ところ》ですから、菖蒲《あやめ》、杜若《かきつばた》、河骨《こうほね》はござんせんが、躑躅《つつじ》も山吹《やまぶき》も、あの、牡丹《ぼたん》も芍薬《しゃくやく》も、菊の花も、桔梗《ききょう》も、女郎花《おみなえし》でも、皆《みんな》一所《いっしょ》に開いていますよ、この六月から八月の末《すえ》時分まで。その牡丹だの、芍薬だの、結構な花が取れますから、たんとお鳥目《ちょうもく》が頂けます。まあ、どんなに綺麗《きれい》でございましょう。

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