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 『高野聖』 泉鏡花を読む

 母親殿は頬板のふくれた、眦の下つた、鼻の低い、俗にさし乳といふあの毒々しい左右の胸の房を含んで、何うして彼ほど美しく育つたものだらうといふ。
 昔から物語の本にもある、屋の棟へ羽の征矢が立つか、然もなければ狩倉の時貴人のお目に留つて御殿に召出されるのは、那麼のぢやと噂が高かつた。
 父親の医者といふのは、頬骨のとがつた髯の生えた、見得坊で傲慢、其癖でもぢや、勿論田舎には刈入の時よく稲の穂が目に入ると、それから煩ふ、脂目、赤目、流行目が多いから、先生眼病の方は少し遣つたが、内科と来てはからツぺた、外科なんと来た日にやあ、鬢附へ水を垂らしてひやりと疵につける位な処。

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