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 『義血侠血』 青空文庫

 内儀は白糸の懐に出刃を裹《つつ》みし片袖を撈《さぐ》り得《あ》てて、引っ掴みたるまま遁れんとするを、畳み懸けてその頭に斫《き》り着けたり。渠はますます狂いて再び喚《わめ》かんとしたりしかば、白糸は触《あた》るを幸いめった斫《ぎ》りにして、弱るところを乳の下深く突き込みぬ。これ実に最後の一撃なりけるなり。白糸は生まれてよりいまだかばかりおびただしき血汐を見ざりき。一坪の畳は全く朱《あけ》に染みて、あるいは散り、あるいは迸り、あるいはぽたぽたと滴りたる、その痕は八畳の一間にあまねく、行潦《にわたずみ》のごとき唐の中に、数箇所の傷を負いたる内儀の、拳を握り、歯を噛い緊めてのけざまに顛覆《うちかえ》りたるが、血塗《ちまぶ》れの額越《ひたいご》しに、半ば閉じたる眼を睨むがごとく凝《す》えて、折もあらばむくと立たんずる勢いなり。

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