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『春昼』 泉鏡花を読む
幕が開いた――と、まあ、言ふ体でありますが、扨唯浅い、扁い、窪みだけで。何んの飾つけも、道具だてもあるのではござらぬ。何か、身体もぞく/\して、余り見て居たくもなかつたさうだが、自分を見懸けて、はじめたものを、他に誰一人居るではなし、今更帰るわけにもなりませんやうな羽目になつたとか言つて、懐中の紙入に手を懸けながら、茫乎見て居たと申します。
また、陰気な、湿つぽい音で、コツ/\と拍子木を打違へる。
矢張其のものの手から、づうと糸が繋がつて居たものらしい。舞台の左右、山の腹へ斜めにかゝつた、一幅の白い靄が同じく幕でございました。むら/\と両方から舞台際へ引寄せられると、煙が渦くやうに畳まれたと言ひます。
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