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『歌行燈』 従吾所好
「泣いてばかり居ますから、気の荒いお船頭が、こんな泣虫を買ふほどなら、伊良子崎の海鼠を蒲団で、弥島の烏賊を遊ぶつて、何の船からも投出される。
又、あの巌に追上げられて、霜風の間々〈あひ/\〉に、(こいし、こいし。)と泣くのでござんす。
手足は凍つて貝になつても、(こいし)と泣くのが本望な。巌の裂目を沖へ通つて、海の果まで響いて欲しい。もう船も去〈い〉ね、潮も来い。……其のまゝで石に成つてしまひたいと思ふほど、お客様、私は、あの、」
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