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 『春昼』 泉鏡花を読む

 矢張其のものの手から、づうと糸が繋がつて居たものらしい。舞台の左右、山の腹へ斜めにかゝつた、一幅の白い靄が同じく幕でございました。むら/\と両方から舞台際へ引寄せられると、煙が渦くやうに畳まれたと言ひます。
 不細工ながら、窓のやうに、箱のやうに、黒い横穴が小さく一ツづゝ三十五十と一側並べに仕切つてあつて、其の中に、ずらりと婦人が並んで居ました。
 坐つたのもあり、立つたのもあり、片膝立てたじだらくな姿もある。緋の長襦袢ばかりのもある。頬のあたりに血のたれて居るのもある。縛られて居るのもある、一目見たが、それだけで、遠くの方は、小さくなつて、幽になつて、唯顔ばかり谷間に白百合の咲いたやう。

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